吉書始め(きっしょはじめ) ─ 領主と百姓の戦い? ─

吉書始め

今回は、第七話冒頭で行われていた「吉書始め(きっしょはじめ)」という行事についてです。

さて「領主と百姓」と聞いてどんなイメージが浮かぶでしょうか。
飢饉・疫病・天災がいかにひどかろうと、問答無用に年貢を取り立てる冷酷な領主に、
泣く泣く従うしかない百姓たち・・・?
いえいえ、中世の村人はそんなにヤワではありません。

年が明けると、両者の間で「吉書(きっしょ)」という文書が交わされます。
内容は、三箇条による約束事。

1.祭祀  領主と百姓は、神社・仏寺を大事にする
2.勧農  領主は、農業の基盤整備に努める
3.年貢  百姓は、増産につとめ年貢を納める

そして、同じ銚子の酒を酌み交わし、神仏に役割を守ることを誓います。
領内の鎮守を司る寺社の僧が、高声で読み上げ、両者互いに自らの役割を確認します。

農作業をし、年貢を納めるのが百姓の義務なら、それを支え、守るのが領主の義務。
もしも、領主が勧農をさぼれば、百姓はおとなしく引き下がってなどいません。
納得できない収納には、強訴・一揆・逃散(国を捨てて逃げる)などの実力行使で抵抗し、年貢を減らさせます。

「何れの御方たりと雖も、ただ強き方へ随い申すべき成」
乱世を生きる百姓は、徹底的に日和見主義。
「吉書」に熱心なのは、むしろ領主の方でした。
(笠野の殿様、お疲れ様です・・・)

領主・領民が村の平和を誓い合う、正月の「吉書始め」。
和やかな酒宴(費用は領主持ち)の裏に、したたかな思惑が渦巻いているのでした。。。


◆参考◆
『戦国の村を行く』藤木久志著(朝日選書579)
『祝儀・吉書・呪符』中野豈任著(吉川弘文館)
『清佑、ただいま在庄』岩井三四二著(集英社)



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